
読むとこころがパアッと広がったように感じる本って時々ありますが、この本”The Art of Possiblity” はまさにそんな感じでした。フワっとしたスピリチュアル本も時にはいいですが、ある程度実用的で現実的な方がしっくりくる、という人向け。人をマネジメントする立場になった時や、子育て、人間関係などのさまざまな場面で参考になりそうな、人の心を育てて「可能性を広げる」ための心温まるストーリーが綴られています。
著者はザンダー夫妻というご夫婦です。ご主人のベンジャミンさんはボストンフィルハーモニーで長年指揮者をされていて、グラミー賞に何度もノミネートされている世界的に著名な指揮者。奥様は心理カウンセラー・エグゼクティブコーチとして活躍されています。
いくつものストーリーの中で、個人的に気に入ったものをシェアします。
「自分自身にAをあげる」
これはご主人のベンジャミン氏の書いたストーリー。ベンジャミン氏は指揮者をしながら、若い演奏家を育てるため音楽学校で教鞭をとられています。オーケストラ団員になることを夢見て勉強する若い演奏者たちは、自分の演奏に関する不安や、間違いを恐れる気持ちから常に重いストレスを抱えているそうです。いい成績をとって厳しい競争社会を勝ち抜くのは大変なこと。生徒たちは週を重ねることに緊張感で疲れてウツウツとしてくるそうです。でも、そんな状態では「自分の演奏の中に新境地を開く」という新しい学びができるはずもなく、ザンダー氏は長年思い悩んでいたそう。成績は、A,B,Cという形でグレードされます。若手を教え始めて25年の過ぎたある新学期、ザンダー氏は生徒たちにこう提案したそうです。
「このクラスの全員に学期が終わるのを待たずにAをあげることにします。その代わり、今から2週間以内にわたしに手紙を書いてきて下さい。手紙はこのように始めて下さい。
”Zandar先生へ、この学期が終わる5月に、わたしは◯◯◯をしたのでAをもらうことができました”
手紙には、どうして自分がAをもらったのかをできるだけ細かく書いてください。少し先の未来の5月に、自分に何が起きているのかをしっかり想像して書いてください。手紙は未来系ではなく、もうそれがすでに起きた、という気持ちで過去形で書いてください。5月の自分に情熱的に恋している気持ちで書いてください。」
そして生徒たちが書いてきた手紙の一部はこちら。
最愛のザンダー先生、
5月のわたしは、この授業でAをとりました。なぜなら一生懸命学び一生懸命考えて、素晴らしい成果があったからです。わたしは新しい自分になりました。以前のわたしはとてもマイナス思考で、何をするにも、まず試す前からそうでした。でも今のわたしは以前とは違います。1年前のわたしは自分の間違いを受け入れることができませんでしたが、今では間違いを楽しんで受け入れ、そこから学ぶことができます。演奏にも深みが増しました。以前は楽譜通りに演奏していただけですが、今ではそれぞれの楽曲の意味を見出すことができるので、想像しながら演奏しています。価値観も変わりました。自分を信じれば、なんでも可能なのだと気がついたからです。わたしは特別な人間です。素晴らしい授業とレッスンをありがとうございました。自分が掛け替えのない人間だということに気づくことができ、なぜ音楽をやっていきたいのかがはっきりと分かりました。ありがとうございました。
親愛なるザンダー先生へ
わたしはAをとることができました。なぜなら、わたしは自分の人生という庭を作る最高のガーデナーになったからです。去年までの自分は、ビクビクしていて、人をジャッジし、ネガティブで孤独で、道を見失って、何をするにもエネルギーがなくて、愛もなくて、スピリットもなくて、希望もなくて、感情もなくて・・・無い無い尽くしでした。そんな風に考えていた自分が、5月には自分を愛する人になり、音楽も愛し、人生や人々、仕事、そして自分の間違いまでも愛することができるようになりました。わたしは、わたしの庭に美しく咲くバラと同じくらい、庭の雑草たちのことが大好きです。明日が来るのが待ちきれません。今日にとても恋しているから。一生懸命に学んで、成果を上げて・・・。素晴らしい気持ちです。
とまあ、生徒たちは素敵なお手紙を書いてきたそうです。手紙以外にも、ポジティブに変化した生徒たちの気持ちは、授業態度にも現れてきたそう。以前より笑うようになり雰囲気もよくなったとのこと。そして、いつもは大人しくて発言することのなかった英語が苦手な台湾からの留学生も、手を上げて発言したそうです。
「僕は70人中68番目の生徒でした。でもボストンにきて、ザンダー先生は僕にAをくれた。とても混乱した。3週間ずっと考えました。僕は68番目だったのに、ザンダー先生はAだと言う。68番なのに、ザンダー先生はAだと言う・・・。そしてある日思いました。68番でいるよりもAでいる方が幸せです。だから僕はAになることに決めました。」
ザンダー氏のアプローチは「視点を変えること」で生徒の可能性を広げることにつながったようです。まさに ”The Art of Possibility"(可能性のアート)
読んだだけで、自分はなにもしてないのになんだか心が豊かになったような気持ちにさせられる素敵な1冊でした。日本語訳はまだ出ていないようです。。残念。でも、ザンダー氏のTEDトークをみつけました。
こちらから