
先日のケイト・スペード(享年55歳)さんの自殺に引き続き、今朝は食・旅番組の人気レポーターでライター、旧セレブリティシェフのアンソニー・ボーデインさん(享年61歳)の自殺のニュースが飛び込んできて、今週のアメリカではうつ病や自殺に対する人々の意識がこれまで以上に高まっています。お二人とも知名度の高い社会的に成功されたセレブリティ。「なぜ?」を超えて、メンタル・イルネス(精神を病むこと)は、体をむしばむ病気と同じくとても重いものであると再認識させられます。
アンソニー・ボーディンさんの食・旅番組が好きでよく見ていたので、ニュースで他界されたと知ったときにはとても沈んでしまいました。こういう悲しいニュースを聞くとどうしてこうなってしまったのだろうと勝手に想像してしまいますが、心の闇の重さと辛さは抱えている本人にしか分からないもの。思考がネガティブの魔のループに入って抜けられなくなりそうになる経験は、それなりの人生経験を積んできた大人でれば誰にでもあるかと思いますが、苦しみから解放されたいという思いを超えて本気で命を絶ちたいと思うに至るまでには、経験している本人にしか分からない底なしの辛さや空虚感があります。原因は環境的要因(起きていること、経験してきたことによって影響を受けた思考・信念)だけではなく、遺伝子的要因も大きく影響していると言われています。体の病気と同じくさまざまなことが作用し合って起きていることなので、その人の内側で何が起きているのかは、たとえ親しい友人や身内であってもなかなか分かりえないものです。
また、抗うつ剤などメディケーションを使用している場合、お薬の副作用による思わぬ化学反応が、ときに人を突発的な行動へと導くこともあります。いろんな要素が絡み合っておこることなので、この分野の心理学を追求していくと、個人的には暗い気持ちになってしまうこともあります。
話が少し変わりますが、幸せについて。
世界トップクラスの心理学プログラムを持つ米・UCバークレー大学には"Greater Good Science Center”という研究所があります。ここでは、ハッピネス(幸せ)やコンパッション(思いやり)などについて研究し、人々が充実した人生を送るためにはどうしたらいいのかを研究しています。ここの研究員の一人、Emiliana Simon-Thomas教授は、元々はネガティブな感情(恐れや嫌悪感など)がその人の人生の決断にどんな影響を与えるのかについて研究していましたが、ある時大きく視点を変えて、どうしたら人がより愛を持ってハッピーな人生を送れるのかの研究を始めました。(このような形で研究視点をネガティブなものからポジティブなものへと切り替える心理学者は、過去20年ほどの間に著しく増えてきているのを感じます。)
心理学全般のこれまでの研究によって分かっていることは、幸せの要因となるのは約50%が遺伝子的要因から、それ以外の50%は日々の心がけと、おかれている環境・状況だということです。これは、遺伝子的要因はしょうがないとしても、それ以外の部分については本人が変えていけるということ。生活習慣を見直すことで、誰でも幸せを感じやすい体質になれるということです。
Greater Good Science Centerでは幸せへの道しるべとして、まずは感謝の気持ちを育てること、そして他人に対して思いやり・慈悲の気持ちを持つことなどを提案しています。これらをつまらないことだとばかにしないでやってみること(笑)が大切だとのことです。知性の高い人ほど、こういうシンプルなことにきちんと取り組むのが苦手なものです。
この分野の勉強をしていると、知性や理論の優れた人よりも、シンプルに物事を捉えて受け止めることができる人の方が、充実した人生を送るのが上手なのではと考えさせれることが多々あります。映画『Happy』にも、そんなメッセージが込められているような気がします。
映画『Happy』をご存知ない方はこちらから。
そして、幸せはどこかからやってくるものというよりは、自分で感じるように習慣的に「心がけるもの」なのだと、考えさせられます。
わたしたち人間はきちんと意識して心がけていないと、自分を取り囲むすべてのことを当たり前と感じてしまうものです。人間の脳は学習機能が高いので、時間の経過とともに「慣れてしまったこと」に興味が薄れてしまうのはごく自然なプロセス。つまり、慣れてしまったことや当たり前の日常の中に、深いありがたみや喜びを見つけ出すことは脳の自然な機能ではないので、意識して立ちどまる努力が必要となります。そこで「マインドフルネス」です。
マインドフルネスは、放っておくと止まらない脳の思考スピードを緩めて、立ち止まってじっくりと周りを観察する行為。まずは呼吸に意識を向けることで、頭と心、体に一体感を持たせることができます。そして次に感謝のレンズから全てを見つめること。すると、視点が一瞬だけ低く小さくなったように感じるのですが、実際には深く奥行きのあるエネルギーを自分自身の中に創り出すことができます。この深く奥行きのあるエネルギーをできるだけ頻繁に自分の中に生み出す習慣を保つことで、幸せを感じやすくなり、起きていること全てを大きな視点で受け止めて自己肯定感を高めていくことができます。
大切なのは頭で分かったように感じるのではなく、ハートで感じることです。地味な作業ですが、本気で取り組むことができたら、とても大きな収穫が得られます。
自分の幸せはだれか他の人が評価するものではなく、自分自身で感じて深めていくもの。何に感謝し何に喜びを感じるのかは十人十色です。じっくりと時間をかけて、自分と向き合いながら幸せ習慣を作っていきたいと感じます。そして、このことに時間とエネルギーを投資する必要があるのだと、誰もが理解すべきだと信じています。
思考が魔のループにはまって抜けられなくなってしまうことは誰にでも起こりえること。精神の健康を保つことは、体の健康を保つこと以上にデリケートで複雑な作業だったりします。辛くなりそうな時は、大きく深呼吸して、自分にとっても喜び、感謝できることを、自分中心で考えてみていただきたいなと願っています。